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漆喰のトイレ

2015. 12. 3

クロスを剥がしている最中のトイレ

「建築の設計はトイレに始まりトイレに終わる」といったような都合のよい格言は残念ながら聞いたことがないが、それでも、トイレが気の抜けた建築というのはどこかその本音をかいま見てしまったような気がして興ざめするものである。ある職人から、床の間や玄関前の壁などは弟子にやらせて、トイレや廊下の壁こそ親方が腕をふるう所だったというようなことを聞いたことがある。実はトイレや廊下の方が床の間などより、使う側の目にとまりやすいものであり、また日本人はそういう裏方にこそ美意識を注いでいたという話だ。なるほど、その習慣には自分自身に聞いても心当たりがある。

2001年にサンプルハウスと称し、置き捨てられた実家の2Fを我が「左官の家」の実験場にしようと発起し最初に手がけた部分は、やはりトイレであった。実験場でもあったが自らのために新調される生活の場でもあったから、トイレが不快では困ると体が素直にそう感じたのだ。剥がされていく既存のビニールクロスから10数年分の蓄積されたトイレ臭が鼻をつんざいたことや、漆喰に塗り替えてからにおいが激減したことを忘れることはない。サンプルハウス=設計者の自宅における、必要に迫られて思いつきでできた漆喰のトイレが、その後様々なところで萌芽し、すべてを拾い上げると30例を超えていることになる。なんだ、君はトイレ作家か?といわれるとモトモコモないが、美しいトイレを歓迎せぬ人はいないということで、前人未踏のこの異名に甘んじるとしよう。

kazemai-toilet 2 (2004)

最初にサンプルハウスで作ったトイレには、当時流行り始めていた竹炭の粉を漆喰に混ぜ合わせて塗った。押さえることにより思いがけずグレーのまだらを表現することができたが、目的はあくまでも炭のアンモニア分解能力を期待するものであった。科学的にも漆喰はアンモニア等を分解することがわかっている。しかしそれ以上に歴然と臭いが少なくなったと感じることができたのだ。その後、住宅や店舗などの仕事=不特定多数の人々が使用するトイレにも、かまわず漆喰を塗った。トイレは水はねがあることを考えると、そこに漆喰を塗ることを躊躇するものではあったが、サンプルハウスにおけるトイレの心地良さを我がモノにしているだけでは本末転倒だと思った。その後、田川産業のライミックス試作機にお目見えすると、この素材を床に貼れば完全漆喰空間ができると考え、すぐさま漆喰トイレNO4,5を作った。この段階では汚れを考慮して黄色の色粉をまだら模様に配したライミックスとした。その直後サンプルハウスのトイレ床も白色無地のライミックスを貼った。その後も、店舗や事務所にと、野別幕なしの具合に、漆喰のトイレを繰り返した。

sikkuytoilet_horadoko2015

 

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