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漆喰の秘技、カルチェラサータ

2017. 8. 31

この仕上げは、賃貸物件にはさすがに向かない。単価が高すぎるから、仮に採用に至る案件であっても、部屋全部というわけにはいかず、ワンポイントで用いるぐらいしかできない。クロスが1000円/平米だとしたら、これは、2〜4万円/平米。しかし、漆喰というのは、ほとんどただ原料を指し示しているだけで、私たちがよく目にする、コテ跡のあのデコボコ仕上げのみを差しているのではない。漆喰には無限の可能性がある、ということを感じるのには、こういう仕上げがあるのを知っていてもいいかもしれない。

弊社で一度だけ経験したのは、某本社ビル新築工事に際して、最上階ホールに隣接したバーカウンターにおいてであった。カルチェラサータとは、イタリア語で「石灰のひげそり跡」という意味で、なんともラテン風味、その名のとおり、濃いめのお父さんのひげそり跡のように、黒いつぶつぶが表面に残りながら、まだら模様が拡がるイタリアの磨き壁である。単価が示しているとおり、何重にも色のついた漆喰を塗り重ね、磨きをくり返すことによって、えもいわれぬ奥行きと存在感のある壁が出来上がる。だから、ぼんやりと正面を見続けることになるバーカウンターの背面には、うってつけである。(くどいが、賃貸には未来永劫縁がない仕上げの類)日本の左官技術にはなかったが、カリスマ左官、久住章氏がイタリアから日本に持ち帰って来て、日本の気鋭の左官職人だけが、この技術を知っている。

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