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無垢材の厚みはなぜ必要?

2015. 12. 3

世の中の思いの外多くのことが、表に見える部分だけで勝負できたりしますが、やはりそれだけでは、不足なことも当然あります。床にフローリングを貼るときの厚みですが、15ミリとか25、30ミリなど、同一の材料で異なる厚みが現に商品として選択できる場合があります。さて、薄くてはいけないのか。厚みはなにかに関係があるのか。寿司職人がネタを見て鮮度が解るように、野菜屋が外からスイカをみてその甘みを想像するように、建築に使われる材料を見ているうちに、奥行きの差がなんとなく、感じられるようになってくるものではあります。ちなみに、同じ材料で同じ下地で、2種の厚みを貼った後に踏み比べてみて、どっちが厚いか当ててご覧といわれて、うまく言い当てられるかどうかは、やったことがないので解りません。(3名で松、竹、梅のウナ丼を頼んでヨコに並べてウナギの差を比べたことなどない、というのと同じです)

いずれにしても、こういう曖昧な話は、なかなか話になりにくいので、厚みに関しては、一つ、調湿効果について書きとどめておきたいと思います。 そもそも湿度=水蒸気の発生源は?というと、建築の外部からやってくる大気のものと、人間が生活することより発生するものの2つです。前者でいう屋外の大気における一日の変化はほどんどなくて、むしろ季節ごとに変化する年較差(1年の間で起こる変化の差)が起こります。後者は日較差(1日の間で起こる変化の差)です。後者の変化に対応する仕上げとしての木材の厚みは3ミリほどでいいのですが、1年の間に変化する、つまり季節の移り変わりに応じて変化する湿度を調湿(一定に保とうとする能力)するために必要な木材の厚みはだいたい20〜30ミリと言われています。これは図らずも美術館や博物館の収蔵庫の壁天井床に貼られる木材の厚みと同じです。

人間も、大切な収蔵品と同じく、建築によって大切に保護されたいわけです。いうまでもなく湿度の変化は少ない方がいいわけで、そのためには、日較差に対応する厚みだけでは片手オチで、年較差に応じる厚みも考慮されていた方がいいではないか、ということです。正確な実験データとして提示できないのですが、少なくとも体感として「なんとなく」そんな気がする、程度の微妙な差の話です。

もちろん、木材の種類によって、能力は変わります。また、せっかく厚い床を貼っても、ウレタン樹脂塗装などの塗膜で被覆してしまえば、調湿という意味では、無意味なものになります。亜麻仁油などの建築油を塗膜に使う場合は、調湿性と耐汚れに対する妥協点、ということになるでしょうか。

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